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家づくり

注文住宅の違約金は
どんなときに発生する?

住宅建築のプロが納得できる
家づくりのヒントをお話するブログ。

今回のテーマは
「注文住宅の契約における違約金」です。

「家を建てよう!」と
気分が高揚しているときには
まず考えることもない違約金。

ですが、数千万円もする
注文住宅をつくっていく過程では
「思っていたのと違う」
となることもあり得ます。

そうなったとしても
数千万円もの契約ですので
簡単に取り消すことはできません。

そこで問題になるのが違約金です。

今回はどんなときに
いくらくらい違約金が発生するのかを
民間(七会)連合協定工事請負契約約款
にもとづいて解説します。

最後に中島工務店が実際に
どのような対応をしているのかも
お話ししますので参考にしてみてください。

結論としては
住宅会社・工務店側に
重大な過失や契約違反がない限り、
お施主様がまったくお金を払わずに
解約することはできません。


住宅は慎重に契約しましょう。

※民間(七会)連合協定工事請負契約
日本建築士会連合会など建設業界を代表する
7つの一般社団 / 公益法人があつまって
建築主にも請負者(住宅会社・工務店)にも
偏らない台頭で公正な契約を目指してつくられた約款。
中島工務店もこの約款を使用しています。





この記事でわかること
□ 約款における違約金の規定
□ 違約金トラブル
 よくあるケースと約款の規定
□ 違約金トラブルを避けるために
 注意したいこと



 
目次


1.違約金とは
2.引き渡しが遅れたときの違約金
3.お施主様の支払いが遅れたときの違約金

4.注文住宅で違約金 よくあるケース3選

5.施主の意思による解約の場合の違約金
6.施主が解約したいときの出来高払いとは
7.住宅ローン審査に落ちたときの違約金
8.工期が遅れたときの損害賠償
9.違約金トラブルを避けるために
  注意してほしいこと

10.違約金への対応~中島工務店の場合~

 


民間連合協定請負契約約款上で
違約金と規定されているのは
次の2つのケースだけです。

※以下、約款といったときには
民間連合協定工事請負契約約款を指すものとします。



約款上の違約金(第30条)
①住宅会社・工務店の過失等によって
 工期内に引き渡せなかったとき
②お施主様の請負代金の支払いが遅れたとき


くわしくはのちほど解説しますが
工期内に引き渡せないときに
お施主様から住宅会社・工務店へ、
支払いがされないときに
住宅会社・工務店からお施主様へ
違約金を請求できる

と規定されています。

ところが実際には
「見積りより高くなったから解約したい」
「工期が遅れたから補償してほしい」など
工事中にお施主様と住宅会社・工務店が
トラブルになった様々なケースで
「違約金」が問題になります。

これらは契約上は違約金ではなく
契約解除に伴う費用の清算や損害賠償です。

しかしながらいずれも一般的に
「違約金」といわれることが多いので
この記事では約款上の違約金・
契約解除に伴う費用の清算・損害賠償を
含めて違約金として解説します。

最初に約款に違約金として規定されている
引き渡しが遅れたときの違約金について
確認していきましょう。

約款第30条によると
引き渡しが遅れた場合、
お施主様は住宅会社・工務店に
遅滞日数に応じて
請負代金 × 年率10%の違約金

請求できます。

たとえば、請負代金2000万円で
引き渡しが10日遅れた場合、
2000万円 × 10% ÷ 365日 × 10日
=約54000円を請求できます。

ただし天候など住宅会社・工務店に
責任がない理由による工期の遅れでは
違約金は請求できません。

また、部分引き渡し
(建物の一部の引き渡し)が
完了している場合は
引き渡し済の部分は請負代金から
差し引いて計算します。



約款に規定されたもうひとつの違約金は
お施主様が請負代金を支払わない場合です。

こちらも約款第30条で
請負代金が支払われない場合、
住宅会社・工務店はお施主様に
遅滞日数に応じて
支払い遅滞額 × 年率10%の違約金を
請求できる
と規定されています。

注文住宅では
請負代金は3~4回に分けて
支払うのが一般的です。

請負代金2000万円で最後の支払い分
(請負代金の30%)600万円が
10日遅れたとすると
600万円 × 10% ÷ 365日 × 10日
=約16000円を請求できます。

なお、同じく第30条の規定により
支払いが遅れている場合は
住宅会社・工務店は
住宅の引き渡しを拒むことができます。





さて、ここからは一般的に
違約金とされることが多い
契約解除に伴う費用の清算など、
いくつかのケースを見ていきましょう。

注文住宅で違約金が問題になる
よくあるケースは以下の3種類です。

★注文住宅で違約金が問題になるケース
①住宅ローン審査に落ちたので解約したい
②金額や工事内容に納得できないので
 解約したい
③工期が遅れて迷惑を被ったので
 補償してほしい

①と②はお施主様(発注者)が
住宅会社・工務店(受注者)に支払う違約金
正確には契約解除に伴う費用の清算です。

③は住宅会社・工務店(受注者)が
お施主様(発注者)に支払う
違約金、損害賠償です。

具体的に見ていきましょう。


 

お施主様が違約金について
調べ始めるケースで最も多いのは
施主の意思によって解約したいときです。

その中でも業界でよく聞くのが
お金・担当者に関するトラブルです。


当初の見積金額から大幅アップして
納得できない!


打合せ中に「せっかくだから」と
要望が増えるのはよくあることで
結果的に見積金額が大幅アップ!

要望が増えた分金額も増えて当然なのですが
打合せ中の説明が不十分だと
納得していただけない場合があります。

ただ、ほとんどの住宅会社・工務店で
最初のプラン時の見積もりは概算です。

品番など詳細が決まっていない段階では
概算にならざるを得ないため
詳細が決定した後に
ある程度金額が変わるのはやむを得ないと
理解していただきたいところです。


担当者が信頼できないから解約したい!

お願いしたことが伝わっていない、
指示通りにやってくれないといったときに
起こるケースです。

注文住宅の設計・施工では
小さな変更でも営業担当者・設計担当者・
現場監督・協力業者などたくさんの関係者に
情報共有する必要がありますが
現実には必ずしも
十分共有できないことがあります。

どんな要望であれ、
お施主様にとっては
一生に一度の家づくりですので
納得できなくて当然ですよね。

指示もれによるやり直しなどが度重なると
担当者や会社を信頼できなくなって
お施主様が途中解約を検討してしまいます。

事例によっては
お施主様が解約したくなる気持ちも
よくわかりますが
契約解除では住宅会社側に
著しい契約違反がない限り、
出来高分の費用は
お施主様が支払う
ことになります。

なお、これは契約上は「違約金」ではなく
契約解除に伴う費用の清算です。

もう少し詳しく見ていきましょう。



約款の第33条に
「発注者がこの工事の出来高部分
 並びに検査済みの工事材料
 及び設備の機器(有償支給材料を含む)を
 引き受ける・・・」とあります。

つまり工事途中で解約したいなら
すでにできている部分については
支払わなくてはいけない
ということです。

例えば躯体が完成して
内装工事をしているときに解約したら
基礎・構造・断熱・外壁・屋根・内装や
配線配管の完成したところまでの
費用は支払わなくてはいけません。

工事の7~8割が完了しているので
2000万円の契約なら1500万円くらい
支払うことになりそうです。

現実的にはそこまで進んだ
工事の費用を支払って解約するという
お施主様は少ないでしょう。

お施主様の立場からすると
「住宅会社が悪いのに納得できない!」
となりそうですがやむを得ません。

ではどんなときにお施主様が負担なく
契約解除できるのでしょうか。

約款の第31条によると
おもなケースは次の通りです。


お施主様が費用負担なく
契約解除できるケース

■住宅会社・工務店が正当な理由なく
 着手期日(着工日)を過ぎても
 着工しないとき
■正当な理由なく工期が著しく遅れ、
 工期内または期限後相当期間内に
 完成する見込みがないとき
■設計図書通りに施工されておらず
 工期内に補修・改善されないとき
■住宅会社・工務店が
 契約内容に違反しているとき
■住宅会社・工務店が倒産しそうなど
 工事を継続できないとき


実際の約款にはもう少し詳しく
難しく記載されていますが
趣旨はこんなところです。

問題になりそうなのは
2つ目と3つ目でしょうか。

工期がどのくらい遅れると
「著しい」といえるかは難しいところですが
天候等によって遅れることはよくあり
工期の変更契約も一般的です。

住宅会社・工務店に
大きな過失があった場合を除いて
工期が遅れたことを理由に
無条件で契約解除できるケースは
少ないと考えてください。

また図面通りに施工されていない場合も
工期内に補修ややり直しがされれば
契約解除の理由にはなりません。


納得できないことがあっても
担当者や会社が信頼できなくても
著しい契約違反がなければ
そこまでにかかった費用を支払わずに
解約するのは非常に難しい

ということです。

一方で、上記のいずれかに
該当する理由があったときには
住宅会社・工務店に
損害賠償を請求できます。




住宅ローン審査に落ちてしまったときは
どうなるのでしょう?

お施主様にも住宅会社・工務店にも
過失がないやむを得ないケースですが
この場合に費用がかかるかどうかは
契約にローン特約があるかどうかです。

ローン特約とは
お施主様が住宅ローン審査に通らなかったら
契約を白紙にするという特約です。

ローン特約があれば契約そのものが
なかったことになるので
契約解除に伴う違約金や
出来高払いも発生しません。


逆にいうと
ローン特約が附帯していない場合は
そこまでにかかった費用を
支払う必要があります。


住宅ローンには
事前審査と本審査がありますが
注文住宅の場合は本審査までに
設計がある程度進んでいる可能性が
高いでしょう。

するとそこまでかかった測量や設計、
各種申請に関する費用は出来高として
支払わなくてはいけません。

ただし、
正しい情報で事前審査に通っていれば
本審査で落ちることは少ない
ので
事前審査で虚偽(盛った)情報を申告しない
事前審査後に転職しない
事前審査後に新たなローンを組まない
各種支払いを滞納しない
といった点に注意していれば
そこまで心配しなくても大丈夫です。

ローン特約が契約に含まれているかは
住宅会社・工務店によって異なります。

分譲住宅や土地の購入の場合は
ローン特約があるかよく確認しましょう。

本審査前に設計を行う注文住宅の場合は
ローン特約は附帯しないことが多いので
事前審査後の行動には十分注意しましょう。



「工期が遅れて予定より長く
仮住まいすることになったから
その分を補償してほしい」
「子どもの小学校入学に間に合わず
送迎などで苦労したから
迷惑料を払ってほしい」など
工期が遅れるとこのようなトラブルに
発展する場合があります。

これはお施主様から
住宅会社・工務店に対する損害賠償です。

工期の遅れによる損害賠償請求は
最初に取り上げた第30条の違約金の規定と
先ほど「施主が解約したいときの違約金」で
取り上げた第31条が参照できます。

まず工期の遅れそのものについては
第30条の規定通り、
お施主様は住宅会社・工務店に
遅滞日数に応じて請負代金 × 年率10%の
違約金を請求できます。


さらに、第31条にある通り
「正当な理由なく工期が著しく遅れ」た
ときには損害賠償請求が可能
です。

ただ、一般的に天候等による工期の遅れは
「正当な理由」と考えられるため、
損害賠償請求に至るのは
簡単ではありません。

実際にはお施主様と住宅会社・工務店が
協議して解決
することが多く、
それでも解決できないときに
建設工事紛争審査会等による
調停、裁判へと進むことになります。



ここまで解説してきたとおり、
注文住宅の契約後に費用負担なく
契約解除するのは非常に困難です。

ご質問が多い内容についてまとめると
およそ以下のとおりです。

■お施主様の意思による契約解除では
 そこまでの出来高分を支払う必要がある
■図面通りに施工されていなくても
 工期内に是正されれば契約解除の
 正当な理由にはならない。
■工期が遅れたときには
 規定の違約金を請求できるが
 天候などやむを得ない理由は
 違約金の対象にならない。

お施主様側に不利な契約だと
感じられるかもしれませんが
数千万円の工事を請け負う
住宅会社・工務店にとって
簡単に解約されてしまうのは
大きなリスクです。

家づくりの最初に見えるのは紙や
データのプラン図くらいかもしれませんが
その裏ではすでに数千万円の工事に向けて
多くの人やモノが動いています。

数千万円の契約であることをよく理解し
次のような点に注意して契約して下さい。


違約金トラブルを避けるために
注意してほしいこと

①その会社で希望が叶うか
 契約前に十分確認し、
 重要なことは口約束ではなく書面に残す。
②要望を増やすと見積もりも高くなるので
 資金に余裕をもって契約する。
③契約を急がず、契約書・約款を
 隅々まで理解してから契約する。

わたしたち住宅会社・工務店としても
途中解約などなくお引渡しして
喜んでいただきたいのが本心です。

それでも行き違いなどが重なって
契約解除は起こってしまいます。

契約は慎重に、
お施主様と住宅会社・工務店が
よく理解し合ってから進んでいくように
お互いに努めたいところです。

なお、本記事では
民間(七会)連合協定工事請負契約約款に
もとづいて解説しました。

住宅会社・工務店によって
使用している約款は異なりますので
契約や契約解除に際しては
ご自身が契約した住宅会社・工務店の約款を
よく確認してください。



最後に、中島工務店が実際に
どのように対応しているかをお話しします。
工務店の対応事例として参考にしてください。

中島工務店は多くの住宅会社・工務店と
少し契約の仕方が異なります。

多くの住宅会社・工務店では
設計から施工までを
1本の請負契約としていますが
中島工務店は
①設計業務委託契約
②工事請負契約
の2本立てで契約
します。

①設計業務委託契約にプラン・設計・
建築確認申請・監理業務が含まれ、
②工事請負契約が
着工から引き渡しまでの工事の契約です。

このため中島工務店では
設計に入る前に設計業務委託契約を締結し
設計が完了して建築確認申請も下りた後に
改めて工事請負契約を締結します。

これがどう違約金と関係するかというと
「設計に納得できず解約したい」
となった場合、
契約しているのは設計契約だけで
工事請負契約はまだ締結していないので
解約にもならず、
工事部分については契約解除に伴う
費用の清算も当然ありません。

もちろん設計契約に含まれる業務については
建築設計・監理業務委託契約約款に従って
違約金が発生する場合があります。

以上を踏まえた上で
中島工務店の対応例をご覧ください。


①設計途中で解約したいとき
設計業務委託契約の出来高分の
費用を清算して契約解除となります。

設計契約料は住宅の規模や内容によりますが
150万円~200万円程度です。

どこまで進んでいるかによりますが
工事請負契約を締結している場合の
清算金額よりは低くなるケースが
多いはずです。

②工事の途中で解約したいとき
これは本記事で解説してきたとおり、
約款の規定に従って出来高分の
費用のお支払いをお願いします。

③工期が遅れご迷惑をおかけしたとき
天候等の理由で工期が遅れた場合、
約款上は特に損害賠償が必要ありませんが
実際には遅れた分の仮住まい、
賃貸住宅の家賃に相当する額等を
工事請負代金から
値引きさせていただくことがあります。

中島工務店では
提携金融機関の尽力もあり、
住宅ローン審査に落ちて
契約解除された例はありません。

ただ、1件だけ事前審査後に
お施主様が病気になられて
本審査が通らなかったケースがあります。

その方は幸い別の金融機関で
住宅ローンを組むことができましたが
数か月・数千万円をかけた家づくりでは
このように誰が悪いわけでもなく
契約解除を迫られる事態も起こりえます。

契約は慎重に、設計期間・施工期間には
違約金を考えなくてはならないような
事態にならないよう、
住宅会社・工務店と
綿密に連絡を取り合って
家づくりを進めましょう。